アベノミクスによって景気はよくなったといわれたりもしていますが、世間一般の感覚としては依然として不景気が続いております。毎月の家賃の支払が苦痛になってきているという方もおられるかもしれません。
そういうとき、もっと家賃の安いところに引っ越そうと考えるのが普通の対応策です。しかし引っ越すといっても、それがまた経済的に負担になりますし、住居としてではなくお店や事務所として借りていたりした場合には、どこに移ってもよいというものでもありません。
そこで、今回は、家賃減額請求について、簡単にご紹介しようと思います。
家賃は増額されるのみと思っていたら間違いで、賃借人側から、経済情勢の変動を踏まえ、近隣の家賃相場なども加味して、今までの家賃では高すぎると考えたときには、一定の減額をすることを賃貸人(家主)側に申し出ることができます。借地借家法32条1項に根拠があります。そして賃料の増額は、借家契約の更新に合わせて行われることが通例ですが、別に更新時期を待ってしなければならないというものでもありません。原則としていつ申し出ても構わないのです。
そして、建前としては、家賃の減額について、相当な理由がある限り、家主が承諾しようがしまいが、賃借人から家賃の減額を申し出さえすれば、以後、家賃は減額されることになります(昭和36年2月24日最高裁判決)。ならば簡単ですよね。
ただあくまでも賃料減額の申し出さえすればよしというのは建前でしかありません。注意が必要です。
実際には、家主が賃料の減額を易々と認めてくれることは稀ですし、従前通りの賃料を何事もなかったかのように請求され続けるのが普通です。そういう場合は、速やかに民事調停を簡易裁判所に申し立てる必要があるのです。
賃料の減額申出をしたのだから、当然に減額になるのだと考えて、悠然と構えていると大変なことになります。最悪の場合、借家契約の解除を申し渡され、退去を求められるということにもなりかねません。
実際、家主の側の依頼に基づいて、賃料不払の人に対する建物明渡請求訴訟を担当していたりすると、しばしば、「家賃が高きに失するので、減額して欲しいとお願いをした。にもかかわらず、それを無視して高い家賃が請求され続けていたので、やむを得ず支払える間は支払ってきたが、結局、余分に家賃を支払っていたことになる。だからそれを踏まえると、賃料を不払いしているわけではない。」という主張が出たりします。
しかしそのようなことを後で主張しても、取り合ってはもらえません。
家賃の減額の申し出をしたのに、家主が受け入れてくれないというならば、すぐに家賃減額の調停を申し立てなければいけなかったのです。
そして調停の結論が出るまでの間、家主の主張に沿って賃料を支払っておく必要がありますが、もし本当に家賃の減額が調停でも決まれば、支払済みの差額は年1割の利息を付して返還されます。
このことも借地借家法32条3項で決まっています。
もっとも、借地借家法32条3項では、「裁判が確定するまで」とか「裁判が確定した場合」とかと書いてあり、調停とは書いてありません。
しかし、民事調停法24条の2で、賃料の増減についての請求をする場合は、まずは民事調停を申し立てるようにと規定されているのです。調停で話がまとまらないときに、初めて訴訟に舞台を移すということになっています(調停前置主義)。ですから、前述のように、まずは調停を申し立てないといけないとご紹介した次第です。
ともあれ、これで賃料を減額させることができることはおわかりでしょう。
しかしただ、健康を損ねて働けなくなったとかいう一身上の理由で、家賃の支払が苦痛になった場合には利用できないところが残念といえば残念です。
それでも景気の減退のために客足が遠のいたというような客観的な事情があるときには、有効な対応策として考えられるのではないかと思います。