会社の倒産と株主代表訴訟

 今回は株主代表訴訟をめぐる盲点についてご紹介します。
 ここで取り上げる株主代表訴訟をめぐる問題は意外に知られていないと思うので、皆様にもご紹介することにした次第です。

  まずはじめに株主代表訴訟というのがどういうものであるのか、確認しておきましょう。
 そもそも株主が株式会社における実質的所有者とされ(株主は通常一人ではないので、その株式の保有割合に応じて割合的に株式会社を所有する者として説明されます。)、取締役は株主の総意に基づき、その経営手腕を買われてその株式会社の効率的な維持発展のために経営を任された者として説明されます。
 従って取締役が株主の期待に反して明らかに違法不当な経営をしたことによって会社が損失をこうむるような事態になったとき、株主がそれについて抗議の意思を態度で示し、会社が被った損害を補填するように求めることができて当然です。そのような観点で認められたのが株主代表訴訟です。
 とはいえ、株式会社の経営の現場では多岐にわたる問題が日常的に発生するので、時機に遅れることなく機敏に適切な経営判断をしていかなければならず、いちいち株主の顔色ばかりをうかがっていては適切な経営ができないという一面もあります。何でもすぐに株主が口を出してくるというのが望ましいわけでもありません。その意味もあって、会社法はあくまでも経営者側で自主的に問題を解決することを期待しています。しかし平取締役が仮に代表取締役のやり方に問題意識を持っていたとしても、その立場で代表取締役の行為を正すべく、損害賠償請求をするなどの対応を取ることを期待することは難しいですし、取締役同士でかばいあうこともありますし、まして会社法の施行により取締役が一名しかいない株式会社も認められるようになりますから、経営側で自主的に解決できない場合も少なくないのです。そういう時、始めて株主の出番となるわけです。
 実際、会社法847条でも、株主代表訴訟を提起しようと考えている株主は、60日以内に会社の方で自主的に問題行為のあった取締役に対しての責任追及の訴訟を起こすよう書面で求めなければならないとされ、会社がそれに応じたアクションをしないという場合でないと株主代表訴訟は提起できないこととされています。 

  さて本題に入ります。
 株式会社の取締役が乱脈な経営をして、普通にまっとうな経営をしていれば何の問題もなかったのに会社を倒産に追い込んでしまった場合、株主は株主代表訴訟により、その問題の経営をした取締役に対して損害賠償請求をすることができるかというのが今回のテーマです。
 普通に考えて、乱脈な経営をして会社が倒産に追い込まれたというならば、正に取締役に対して株主として責任追及できるのは当然です。きちんと取締役に責任を取らせることができれば、株式会社の倒産状態も解消するかもしれません。
 ところが会社の倒産とはいっても、その始末のために裁判所から破産宣告が出されて破産管財人が選任されている場合や、大規模で社会的にも認知されてきた株式会社であるため、また再建できる可能性に賭けてみるとして、会社更生法の適用を受けて更生管財人が選任されているようなときには、株主代表訴訟を提起することはできないのです。
 これは法律でそのような制限が規定されているわけではありません。しかし過去の裁判例で何回も同様な判決が出ているのです。ですので実務的に定着した取り扱いということでしょう。
 さて、ではなぜ株主代表訴訟ができないというのかということですが、もともと株主代表訴訟という制度が必要とされた事情(前項で触れましたように、取締役ら自ら自主的に、経営の失敗を反省し、会社に対して損害を補填するという措置を講ずることは期待できない)が、破産管財人が選任されているときや更生管財人が選任されているときには当てはまらないとされていることです。
 つまり破産管財人は通常、それまで破産会社とは何の利害関係を有していなかった弁護士が選任されます。そしてその破産管財人の業務は裁判所の監督に服します。更生管財人についても同様です。
 ですから、取締役自身が自主的に解決することが迫られるのとは異なり、本当に必要があれば、破産管財人又は更生管財人は、率先して、裁判所と相談しながら、問題の取締役に対する責任追及をするはずであるというのです。つまり「株主の皆様が余計な心配をする必要はないですよ。」ということです。   

 しかし、本当に破産管財人や更生管財人は、きちんと取締役らに対する責任追及を手抜かりなく行ってくれるのでしょうか。
 会社更生手続の場合にどうであるかはともかく(会社更生の場合は、有名な大会社の倒産である場合が多いので、世間の関心も高く、取締役の経営責任の追及を曖昧に済ませることは実際、難しいかもしれません。)、破産手続の場合は、破産管財人を監督する裁判所は、破産手続の早期処理をあくまでも追求し、破産管財人にも早期終結に向けてのプレッシャーをかけ続けているのが実情です。裁判所から率先して破産管財人に対して、取締役に対する責任追及は少々時間がかかってでも怠りなく行うようにと指示する場合はほとんどないのが実情です。
 実際、債権者集会において、株式会社の破産に導いた取締役の経営のあり方について納得できないという債権者からの指摘がなされることは少なくありません。しかし破産管財人がその取締役に対して損害賠償請求をしたとか、少なくとも損害賠償義務を認めさせたとかいうことは聞いたことがありません。債権者たちは不満を抱えながらも、裁判所や破産管財人が取るに足らないこととして説明しているのなら仕方がないと、不本意ながらも納得させられているというのが通例です。
 債権者に対してさえ、そのような対応なので、まして株主の考えには全く配慮されないということです。実際、破産手続において裁判所関与の下で債権者集会は開催されるても臨時株主総会が開催されることがないということが象徴的でしょう。

 それでも、中立公正な破産管財人、更生管財人がかかわるので、取締役に対する責任追及がしっかり行われるはずで、株主が心配することではないと言えるのでしょうか。
 過去の裁判例は見直される必要があるのではないでしょうか。