今回は特別縁故者の財産分与請求についてを取り上げることにしました。この制度は少子高齢化社会、非婚化、晩婚化が一層進むであろう今後の日本社会でますます重要性を帯びてくる制度であるからです。この制度が広く一般に知られ、かつ、積極的に運用されるようになれば、高齢者の福祉対策にも大きく寄与することは間違いありません。というのは、この制度は配偶者や子がいないような者に対して、妻(夫)代わり、子供の代わり、そこまでには及ばなくとも精神的、経済的に援助を続け、生活の支えになった者に被相続人(故人のこと)の財産の全部または一部の分与を認める制度であり、近親者がいない者に対して近親者に勝るとも劣らない程度の精神的、経済的な援助をしたことに報いるものなのです。この制度が広く知られ、かつ積極的に運用されるようになれば、社会一般に助け合いの精神も定着するし、国や地方公共団体の福祉が追いつかなくなったときでも、民間で支えることができるようになると期待されるのです。
さて、「特別縁故者」とは何なのかですが、民法が定める相続人ではないが、被相続人の生前、被相続人とあたかも相続人であったかのように緊密な関係があった人のことをいいます。すなわち、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養監護に努めた者などです。
具体的には内縁の妻、夫、養子縁組の届出をしないままになってしまったが、本人たちや周囲の人は養子だと思っているような関係にある場合、血縁関係としては、いとこのように相続が認められない関係ではあるが、親子、あるいは兄弟並みの関係を持っていたなどがその典型です。
しかし条文上は、別に相続人に準ずる関係という表現で規定されているのではなく、「被相続人と特別の縁故があった者」と規定されているだけですから、前に述べたような関係にある場合だけではなく、借地人に対する地主であるとか、会社の使用人に対する社長であるとか、たまたま隣近所に住んでいただけの人であっても、それだけの関係に留まらず、実の親子や夫婦並といえるほど精神的・経済的に緊密な関係があれば、広く特別縁故者にあたると解されています。
そして特別縁故者に対しては、法律上の相続人がいないまま被相続人が死亡した場合に限り、前述したように相続財産の全部または一部を譲り受けることができることになっています(民法958条の3)。
もちろん、全く特別縁故関係などないのに、我こそ特別縁故者だと宣言して財産を貰うことができるということがあってはいけませんから、家庭裁判所に所定の財産分与の申立を行って、家庭裁判所の調査官の面接その他の調査を経て、家庭裁判所から特別縁故者であることが認められなければなりません。
それでは家庭裁判所への財産分与の申立はどうするかですが、最初からいきなり申立ができるわけではないことに注意しなければなりません。一定の順番を経なければならないのです。
第1段階
相続財産管理人を家庭裁判所に選任してもらうための申立を行う(民法952条1項)。
もとの財産の所有者である被相続人が相続人のいないままに死亡していますから、遺産を管理する人がいない状態になっています。そこでその管理人を選任してもらわなければなりません。
それに改めて調べてみないと、もしかすると忘れられた相続人がいるかも知れませんし、債権者がいるかもしれません。そういうことを調査確認する責任者をまず決めようというわけです。
相続財産管理人は通常、弁護士が選任されるようです。
そして気をつけなければならないのは相続財産管理人はボランティアではないということです。当然報酬が必要です。問題になっている相続財産から報酬が支払われるのです。従って預金などがあれば、そこから相続財産管理人が報酬を差し引いてしまいますし、不動産しかなければ不動産を売却して、金銭に換えてしまうのが通例になってしまっています。意外とこの事実は知られていないため、特別縁故者として財産分与を請求してみて始めてこの事実を知り、がっかりするケースが多くあります。
でも、この取り扱いはやむをえないものとして受け容れるほかないでしょう。
第2段階
次の段階として、家庭裁判所が相続財産管理人が選任されたことを官報に公告します(民法952条2項)。
これは家庭裁判所の義務として行いますから、気にしなくても大丈夫です。
第3段階
第2段階の公告後、2ヶ月たっても、相続人がいないらしいときには、相続財産管理人の責任において、債権者や受遺者(被相続人から遺言書に基づいて財産を貰えることになっている者)がいないかどうかを官報に載せて公告します。この期間は2ヶ月以上です(民法957条1項)。
第4段階
第3段階の公告期間の満了後、相続財産管理人または検察官が家庭裁判所に請求して、相続人がいたら名乗り出るようにと、官報に公告を出す。この期間は最低6ヶ月です(民法958条)。
これらの間に相続人の存在が明らかになった場合は、通常の相続の問題になってしまうので、特別縁故者が財産分与を受けることはできなくなります。ですが通常、官報に気がついて名乗り出てくるような相続人はいません。
以上の一連の手続きを経て初めて、財産分与の申立ができるのです。なんと官報に同じ被相続人についての公告が3回も行われるのです。
気をつけなければならないのは、申立ができるのは第4段階の公告期間が満了したとき以降で、なおかつその期間が満了してから3ヶ月以内に限定されるということです。従って、特別縁故者として財産分与の申立をしようと考えているのであれば、相続財産管理人の選任の申立を自らしなければならないほか(もちろん既に相続財産管理人が選任されているなら、申立は不要です)、手続が第2段階ないし第4段階のどの段階に現在進んでいるかを常に注意しておかなければなりません。ぼんやりしていると申立をする機会を逃すかもしれないのです。
さて、最後に分与を受ける財産の範囲についてですが、一昔前の物の本によると、原則として全部分与を受けられるかのごとく記載されているものが散見されました。しかしこれは誤りです。むしろ原則は一部しか分与されないとお考え頂いた方がいいと思います。というのは、もともと特別縁故者の財産分与請求の制度は昭和37年に追加された制度で、あくまでも被相続人に相続人がいなければ、原則は最終的に相続財産は国庫に帰属するとされている(民法959条本文)影響が強いのです。即ち、特別縁故者の財産分与請求は、本来、恩恵的なものでしかなく、厳密な意味での権利ではないと位置付けられているのです。国庫に帰属するのが原則だけれども、少しは形見分けをしようというような発想が残っているわけです。
最初にも述べたように、この制度は今後、ますます重要なものとなることは間違いありません。立法の経緯はともかくとして、その積極的な意義に注目し、原則として特別縁故者には全部の財産を分与するように運用を改める時期に来ていると思います。