今回のテーマは、自戒を込めてのものです。
我々が仕事を行う際に、依頼者からのクレームで一番多いのは、「いつまで待たせるのか」、「いつになったらできるのか」というもの、つまり事件処理の遅延に関してです。そのように言われるのは、「お前だけだ」とお思いになる方もおられるかもしれませんが、言われたことのない弁護士の方が珍しいのが現実です。
弁護士をしていると時間感覚が少し狂ってくるのかもしれません。これには裁判の期日の影響があると私は思っています。裁判の期日の間隔は通常で1カ月おきです。少し面倒な課題があるときや、夏休み期間をまたぐときなどは2ヶ月以上、間隔があく場合もあります。しかし常に訴訟準備のために1ヶ月も必要かというとそんなことはありません。1時間程度依頼者と対応を協議すればよいというときでも1ヶ月間隔があくのです。このことが弁護士の時間感覚を狂わす元凶なのかと思っています。
無意識的にこの影響からか、簡単なことでも1、2ヶ月くらいで処理すれば十分なのだと考えてしまうのです。さすがに半年も経ってくると「まずいぞ」となりますが、1、2ヶ月くらいで処理できれば普通、1ヶ月以内に処理できればすごく迅速に処理でき大満足となってしまいます。しかし事件を依頼して待たされる立場になるとき、1ヶ月でも充分に長いはずなのです。これは気をつけなければなりません。
しかし事件処理が遅れてクレームの原因となるのには、弁護士の時間感覚の狂い以外にも要因がある場合があります。
それは依頼者と弁護士とのコミュニケーション不足です。
例えば、証拠資料の収集の責任の所在があいまいになったまま、月日が経過してしまうということがあります。証拠資料は確かに専門家として弁護士が考えて揃えるべき物もありますが、依頼者が揃えて頂かなければならない場合がほとんどです。証拠資料がないまま、事件の相手と交渉したり訴訟提起したりすることはできません。だから弁護士としては証拠が揃うのを待つわけですが、依頼者は証拠の収集も含めてお願いしたつもりだったというわけです。
もう一つ例を挙げると、事件の見通しについての依頼者と弁護士の認識にズレがあるという場合です。依頼者は自信満々、弁護士は必ずしも楽観できる事件ではない、慎重に構える必要があるというように認識にズレがあるときに、お互いのコミュニケーションがうまくできていないと、依頼者は「弁護士にやる気がないだけだ」などと誤解をし、クレームの原因となってしまうのです。
いずれにしても事件処理が遅れるのは好ましいことではありません。私も常に待たされる側の立場を思い起こし、依頼者とコミュニケーションをよくとることを肝に銘じていきたいと反省しているこの頃です。