取引先から今までの取引上の代金をB信販に支払って欲しいとの債権譲渡の通知が届きました。その取引先にこの通知のことを確認しようとしても連絡が取れなくなっています。それでもやはり、B信販に支払うべきなのでしょうね?
「当然、元の債権者である「取引先」から債権譲渡した旨の通知が届いたのですから、B信販に支払わなければならない」と考えたいところです(その理由についてはトピックN.O5参照)。
ところが、その「取引先」の経営が悪化していていつ倒産してもおかしくない、あるいは倒産したという情報があるというときに届くこの手の債権譲渡通知を安易に信用してはいけません。事例の場合も「取引先」に確認しようとしたのに連絡が取れないというのであって、既に事実上倒産してしまった可能性があります。やはり注意すべきケースです。
なぜこのようなときの債権譲渡通知を信用できないのかというと、B信販がその「取引先」に対して金銭を融資する際に担保のために、予め白紙の用紙に融資先の会社の記名押印をさせておき、本当に必要になったときにその用紙を使って債権譲渡通知を勝手に作成してしまい、それが届いたのだという可能性があるからです。もとより「取引先」が金銭の借り入れの際、B信販との間で、いよいよとなったときは売掛金債権などを譲渡することを約束していたというのであればよいのですが、しばしば金融業者は、融資先である「取引先」に対して、用紙に記名押印をする意味をよく説明しないままに、「融資の実行のために必要な書類です。」という一言のみで記名押印をさせることが少なくないのです。更にはB信販が悪質な金融業者であると、「取引先」に対する強引な取立ての中で無理やり債権譲渡通知に押印させてしまったりするケースもあるのです。もしそうだとすると「取引先」には売掛金債権を譲渡するという本当の意思がないわけで債権譲渡自体が成立していないと考えなければならないはずです。そして債権譲渡通知を作成し、発送したのも、実のところ、本来の売掛金の債権者である「取引先」ではなく、B信販だったということもあるのです。つまり実態を突き詰めてみると有効な債権譲渡の対抗要件としての通知がされていないということにもなるのです。
以上のわけで、その「取引先」の経営が危機に瀕しているときあるいは既に倒産しているときに届く債権譲渡通知を安易に信用できない理由がおわかりいただけたと思います。
更に一言付け足すと、「取引先」についての情報が何も分からなくとも、届いた債権譲渡の通知自体から眉唾であることを見破ることができる場合もあります。例えば債権譲渡の通知が入っていた封筒が日常、その「取引先」が使用しているものとは違う封筒である場合、通知の本文に売掛金債権の金額が明示されていない場合です。「取引先」が自分の意思で債権譲渡をしたのであれば、対象の金額も分かっていますので当然、金額が明示されているはずですし、どのような取引で発生した売掛金なのかが明示されます。ところがB信販が勝手に作成するとなると、詳細を知らないわけですから、ただ単に「貴社との取引によって生じた売掛金全額」を債権譲渡したというような抽象的でアバウトな記載になってしまいます。また封筒も間に合わせのものになってしまうことが多いのです。
それでは、もしこのような眉唾の債権譲渡通知をうっかり信用してB信販に売掛金を支払ってしまったときにはどうなるでしょうか。
「取引先」が何らの手続をとらずに夜逃げしてしまったり、倒産するに任せているときには事実上、問題が起こることはないと思われます。「取引先」も自分が倒産させてしまったのだから仕方がないとして諦めてしまったり納得してしまったりするからです。しかし、正式に破産宣告がされ破産管財人が選任されたときや、破産宣告は出なくとも取引先が弁護士を依頼したり、取引先の債権者が相談しあって債権者委員会が組織されて会社の任意整理が開始されたときなどは、面倒に巻き込まれることを覚悟しなければなりません。破産管財人、取引先の弁護士、債権者委員会は債権譲渡の無効を主張して、改めて売掛金を支払うよう請求してくることは確実なのです。
とはいえ、ここで問題にしているような信用のできない債権譲渡通知が届いたとき、B信販からの督促に対して拒絶し続けることにも不安はあります。相当執拗な督促が行われることを覚悟しなければならないことはもちろん、後になって、「取引先」と連絡が取れ、債権譲渡したことは間違いないのだと確認が取れるかもしれません。そのときになって支払に応じるとしても既に高い金利がついて損をするかもしれません。
ですからこのような安易に信用できない債権譲渡通知が届いたときには、とりあえず法務局に供託してしまうことをお勧めします。真実の債権者が誰であるか分からない場合に法務局に支払うべき金額を持参して保管してもらうことで、債務は支払ったこととして処理できるのです(民法494条後段)。もっとも、法務局では、一見、有効な債権譲渡通知が届いているのだから債権者は明らかなのではないかとして、供託を断ることもあるようです。その場合には、やはり対応を専門家に相談するべきでしょう。