まず代襲相続の意味からご説明します。
相続が開始されたとき、まずは、故人(法律用語では「被相続人」といいますので、次からは「被相続人」と表記します。)の配偶者及び子が相続人となります。しかし被相続人に先立たれた子がいた場合には孫がいることもあるでしょう。もしかしたら孫にまで先立たれたとしてもひ孫がいる場合もあり得ます。長寿の方が子供に先立たれてしまつて、子供より長生きすることはあり得るからです。そのようなとき、被相続人の孫やひ孫が、その親である既に故人となっている被相続人の子に代わって相続することを代襲相続というのです(民法887条2項、3項)。
なお正確を期して付言すれば、被相続人に子や孫の直系卑属が誰一人おらず、父母や祖父母などの直系尊属のどなたもご存命でないときには兄弟姉妹が相続人となりますが、その際、兄弟姉妹の内で被相続人に先立ってお亡くなりになっていた方がおられた場合、その子(兄弟姉妹の孫やひ孫は代襲相続人になることはできません)が代襲相続人となります(民法889条2項、887条2項。887条3項は準用されていない。)
前置きが長くなってしまいましたが、以上を踏まえて、被相続人がその生前、養子縁組をしていて、その養子が被相続人に先立って死亡してしまっていたとき、その養子にも子がいた場合に、その子は被相続人の孫として代襲相続できるのかについて解説します。
養子縁組をした以上は、養子も実の子と同様に子として相続ができるわけです。であるなら、当然、養子の子も被相続人の孫に当たるはずで代襲相続ができるのは明らかではないかと思えるのです。
しかしそのように結論を出すのは早計なのです。
確かに養子縁組をすれば、養子となった人と養親とは法律上の親子関係が発生します。しかし養子の子からすれば、自分の親が誰かの養子になったからといってその影響を受けるのも不条理なことというべきでしょう。今まで祖父母であるとは思っていなかった赤の他人だった人が、ある日、自分の親が養子縁組したために、その日を境に自分の祖父母になってしまうというのには抵抗を感じるはずです。
この点に配慮して、民法は727条で「養子と養親及びその血族との間においては、養子縁組の日から、血族間におけるのと同一の親族関係を生ずる。」と規定しているわけです。ここで「その血族」というときの「その」が指しているのは「養親」なので、養子の側の血族は、養子縁組の影響を受けないということを意味するのです。つまり養子となった人の子にとって、自分の親が誰かの養子になったからといって、その誰かの孫になったということにはならないのです。
これに対して、養親側の血族にとっては、養親となった方が縁組した養子との親族関係が生ずることにされていますが、これは養子制度の性質上、当然だといえます。
ここでもし、養子縁組を養親と養子の間だけの問題として、養親側の親族との間にも親族関係が発生しないとすれば、養子縁組したことで養子が養親の相続人になるといってみたところで、他の養親の血族にとっては養子は他人のままとなるわけで、「なぜこいつ(養子)が○○(被相続人)の相続人になれるのか」などという議論を招き、大混乱を来たすからです。
ここまで論ずることでおわかり頂けるかと思いますが、養親に当たる被相続人の養子の子や孫は、養子にとっての子や孫であったとしても代襲相続することはできません。被相続人から見れば孫でもひ孫でもないのですから当然のことです。代襲相続について規定した民法887条2項の但書において、「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りではない。」と規定しているのはその意味なのです。
しかし問題はそれで終わりではありません。そこがまた一筋縄でいかないところです。
まず既に解説したところにも関わらず、養子縁組後に出生した養子の子については、被相続人の孫として代襲相続することができるとされています。
養子の側の血族には、養子縁組の影響は及ばないはずなのになぜでしょう?
この点、養子の側の血族に養子縁組の影響が及ばないということになっている理由から考えれば理解できるかと思います。それは、今まで赤の他人でしかなかった人が、自分の親などが養子縁組をしたからといって、赤の他人がある日を境に祖父母であるなどということになるのに抵抗があるはずだからでした。しかしこの点、自分の親が養子縁組をした後に自分が産まれたとすれば、もともと自分の親の養親に当たる人は最初から自分にとっての祖父母という意識で生まれ育つはずなのです。むしろ親族関係がないとして取り扱われるとすれば、その方がよほど不自然です。
つまり、養子の子から見れば、自分の親の養親に当たる方は祖父母であるし、養親に当たる方から見れば孫なのです。ですので民法887条2項但書にも関わらず、親の養子縁組後に産まれた子は被相続人の直系卑属として代襲相続することができると解されているのです。
もう一つ問題があります。
日本でよく見られる、いわゆる婿養子の場合です。つまりある人が自分の娘の配偶者と養子縁組をする場合において、その娘夫婦の間に産まれた子が代襲相続できるのかということです。もっとも通常は娘夫婦が婚姻するのに合わせて養子縁組されるでしょうから、先の問題で触れたように、いずれにせよ娘夫婦の子は養子縁組後に出生することになり、代襲相続できることはいうまでもありません。しかしなかには、娘夫婦に子供が産まれた後に、相続税対策などを考えて、娘の夫と養子縁組をすることもあるでしょう。その場合は既に産まれていた娘夫婦の子は代襲相続できるかという問題です。
しかし娘夫婦の子にとって、自分の父親が養子縁組をするか否かに関わらず、養親となった人はもともと母方の祖父または祖母に当たるわけです。つまり民法887条2項但書が適用されることはありません。代襲相続はできます。
このテーマは、他にも多く解説されているサイトがありました。しかしなぜそういう結論になるのか、納得のいく説明が十分にされているものはなかなか見つかりませんでしたので、まとめてみることに致しました。