中古マンションの売主が滞納した管理費の支払義務

 中古マンションを購入してから管理費をまじめに支払ってきたのに、前の所有者である売主の溜めた未払管理費を支払えと管理組合から請求されたら、あなたはどうしますか。何かの間違いではないかと問い合わせをしたり、ふざけんじゃないと、抗議しようとしませんか。
 ご存知の方は、いまさら何をつまらないことをとお思いになるかもしれませんが、ご存知ない方が多いのです。

 正解は管理組合の請求は法的に見ても正しく、前の所有者の未納分の管理費も支払わなければなりません。
 建物の区分所有等に関する法律(一般的に「区分所有法」といいます。)第8条は、「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる。」と規定しております。「特定承継人」とは、簡単に言えば買主のことと考えて下さい。そして、その「前条第1項」にあたる区分所有法7条1項は「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の付属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、 (以下、省略)」と規定しており、管理費の性質上、区分所有法7条1項に規定する債権に含まれることは明らかなのです。従って、管理費を請求する権利は、その管理費を溜めた本来の債務者である区分所有者から買い取った方に対しても請求できるわけです。
 区分所有法がそのような規定をしたのはなぜか、自分の責任でないのになぜ他人の溜めた付けまで支払わなければならないのか、そんな馬鹿な法はないと思われるかもしれません。
 理由は次のとおりです。

 管理費はマンションを適切に管理運営するために必要不可欠なマンション居住者が支払うべき分担金です。少しでも回収できず焦げ付くことは支障があります。その点、他人を信用してお金を貸したのに、返してもらえないというような個人の他人の信用に対する見通しの甘さで処理できる性格のものではありません。そこで管理費を溜めた区分所有者が他人にマンションを売却して引っ越した場合を考えてください。引越し先について、管理組合にご丁寧に教えてくれればまだよいのですが、教えてくれないことも少なくないでしょう。マンションを買った人でも売ってくれた方がどこに引っ越したか知らないのが普通です。そうすると、管理組合がもともとの管理費未納者に請求しようとしても、どこにいるかわからないから断念せざるを得なくなる恐れがあります。個人的な貸し借りならそれで仕方ないかもしれませんが、管理費の性質上そういうわけにはいきません。そこで、新しく買った方も、管理費の未納が存在したにもかかわらず、管理組合がそれを埋め合わせてマンションを適切に管理してきた便益を享受する訳ですから、前の所有者が溜めた管理費の分であってもご負担いただいてもやむをえないという価値判断が出てくるのです。

 ただもちろん、新しいマンション所有者が未納管理費を管理組合の請求に応じて支払ったときは、もし管理費を溜めた元の所有者の連絡先を知っていれば、支払った分を請求できることはいうまでもありません。