寄与分について

 今回は寄与分制度について概略を取り上げます。相続法改正シリーズの第2弾としようかと思いましたが、その前に以前からの制度である寄与分を一度ご紹介しておく必要があると思い至ったからです。

 寄与分制度は、相続人の中に、被相続人のために特別な貢献をしてその財産の維持、増加に寄与した者がいるときに、その貢献を評価して、他の相続人よりも多く相続できるようにする制度です。
 そのような特別な貢献を評価してこそ、真に公平な相続ができるというわけです。
 この点、実質的な公平を図る目に法定相続分による機械的な相続に修正を加えるという意味で、前回取り上げた特別受益と共通の制度ということができます。
 実際、寄与分が認められた場合の具体的相続分の計算の考え方も特別受益の場合と類似しています。しかしあくまでも計算方法についての考え方が類似しているということであって、実際の計算方法は特別受益の場合とは正反対ですので、誤解されないようお願いします。
 寄与分が認められた場合の計算方法は、遺産の金額から寄与分として認められる金額をまず控除をして(差し引いて)、その控除後の遺産の金額を法定相続分に応じて各相続人の具体的相続分を計算し、その金額に寄与分が認められた相続人には、寄与分として認められた金額を加算することによります。
 特別受益の場合は、特別受益分を遺産に加算して(持ち戻して)、法定相続分に応じて各相続人の具体的相続分を算定し、特別受益を受けた相続人には特別受益分を差し引くことによって計算するわけで、計算の考え方は共通していますが、計算方法は正反対となるのです。

 しかし寄与分制度は、次の点において特別受益とは全く異なっています。
 まず第一に、相続人であるということは被相続人の近親者ですので、被相続人のために一定の援助をしたり、協力をしたり、病気の際の見舞いや介護を担ったとしても、それは当然のことであって、人並みのことをしただけでは特別な貢献をしたと評価されることはないということです。 
 ですから、被相続人の晩年に入院していたとき、他の相続人は全くお見舞いをすることがなかったのに、自分は毎日のようにお見舞いに伺った等ということがあったとしても近親者であれば病気のお見舞いをすることがあっても当然であると考えられ、寄与分があるなどと考慮してくれることはありません。ですので、病院に入院していても治療すべき事がないからといって、無理矢理退院させられてしまい、被相続人の自宅で長期間にわたり泊まり込み、自分が看護師であるのごとく、つきっきりで被相続人の看病や世話をしたというようなレベルでないと特別な寄与があるとは考えてもらえないのです。 
 そして第二に、その相続人の特別な貢献、協力の結果、被相続人の財産が増えた、少なくとも減少していくことを阻止することができ維持できたといえる場合でなければならないのです。ですので、どんなに被相続人の家業を手伝い、家業をもり立てていたとしても、家業が破綻して、財産も大幅に減ってしまったなどという結果になったときには、やはり寄与分があるとは考えてもらえないのです。すなわち、被相続人のためにどれだけ特別の寄与と評価されてしかるべき協力、貢献をしたとしても、それが経済的な意味において、結果として表れなければ、やはり全く寄与分があると認めてもらうことはできないのです。
 前述の被相続人の自宅に泊まり込み、日夜、看護師であるかのごとく被相続人の看病や世話をしたという場合であっても、その間、被相続人のお金から謝礼金を定期的に受け取っていたということであれば、結局、病院に入院していたのと同様に、被相続人に金銭的負担をかけ、被相続人の預貯金などが減少する要因になってしまっているわけですから、寄与分として考えてもらえないことになってしまいます。無償でつきっきりの看護をしてこそ、その間、被相続人の医療費の負担を免れて被相続人の財産を維持させることになったと評価され、寄与分が認められるということになります。
 以上の二点のために、寄与分が認められるためのハードルは極めて高く、家庭裁判所にて寄与分を主張してもなかなか認められません。結局、生前に贈与を受けた場合には原則として特別受益として持ち戻し計算の対象とされてしまうというのとは、全く異なっているわけです。
 そしてもう一つの特別受益との違いとして、寄与分の主張をするためには、寄与分を認める旨の調停を遺産分割調停とは別に申し立てなければならないということが挙げられます。しかも気をつけるべきことは必ず同時に遺産分割調停、審判が家庭裁判所に係属していなければならないということです。遺産分割の調停が申し立てられていないのに、寄与分の申し立てだけをすることや、遺産分割事件が終了してしまった後に寄与分の申し立てをすることもできないのです。
 この点、特別受益が遺産分割調停の中で、別途の申し立てをする必要なく、取り上げてもらえるのとは全く異なっているのです。