歩行中に転倒して怪我をしたときでも損害賠償請求の可能な場合

 誰しも、うっかりと何かにつまずいたり、足を滑られせたりして転倒してしまったという経験はあるのではないでしょうか。そのようなとき、いい大人が「恥ずかしい」と思いますし、「もっと足許に注意していればよかった」と自分の軽率さを後悔したりするものです。しかしそれで骨折してしまう等、大けがをしてしまうときとてあるわけです。たとえ大けがをした場合でも、原則はやはり自分自身の不注意によるものでしょう。
 しかし、転倒してしまった場所が足許を注意していても足を滑らせて転倒することも当然あり得るような危険な場所の場合もあります。もちろんその場所がハイキングコースだったり、トレッキングコースだったり、あるいはそもそも立入禁止のエリアだったりしたら、それは確かに自己責任でしょう。雪道での転倒も同様です。雪道が転倒しやすいことは常識で、テレビなどでもよく注意喚起されています。ですが人が転倒したりつまずいたりするようなことがあってはならないという前提で、人が管理しているような場所であるにもかかわらず、滑りやすくなっていて転倒してしまったということもあり得るわけです。そのような場合、その場所を管理していた人の管理責任を問うことのできる場合があります。
 今回は、歩行中に転倒して怪我をしてしまったようなとき、損害賠償請求できる場合を整理してみたいと思います。

 まずざっくりと言って、野外の場合は難しく、建物の中で転倒した場合に損害賠償請求できる可能性があるといってよいでしょう。

 しかし野外の場合でも絶対に損害賠償請求できる場合がないとはいえません。ほとんどの道路が舗装されていますけれども、その転倒をした箇所だけに穴が空いていた、そこだけが出っ張っていたなどというとき、その道路の管理者に対して責任追及が可能な場合があるかと思います。しかし舗装も年月が経つと痛みますし、転倒した箇所だけに限らず、全体的にでこぼこして来たりします。全体的にその道路が傷んででこぼこしていれば足許に気をつけなければ危ないなと予め予測できるので、転倒したときの責任はまず転倒した歩行者自身にあるとされてしまうでしょう。

 さて建物内での転倒の場合です。お店の床、病院の床、プールサイドのタイル、温浴施設の浴槽周りの床等、実に様々な箇所で滑りやすくなっていて転倒してしまうことがあります。
 よく言われるのは、天気が雨で、床が濡れていたり、履いている靴がぬれたままであったりしたら滑りやすいのは当たり前だし、プールサイドの床や浴室の床が滑りやすいのも当たり前だろう、やはり転倒した人が足許を注意していないのが行けないのだということです。
 しかし、最近では床の素材も実に様々で、その使用箇所に応じて適切な滑りにくい素材も選ぶこともできるわけですし、更に各種の防滑剤(床を滑りにくくするための薬品)も販売されているのです。水で濡れる場所はそれに応じて、油分が付着しがちな床ではそれに応じて、人が裸足になって歩くことが想定されている場所ではそれに応じてと、それぞれその床の用途に応じて滑りにくくするための対応できるようになっています。ですので、不特定多数の客が集まるような建物の施設管理者としては、人が歩行する床を滑りにくく安全な状態に保つ義務が課されるに至っているわけです。今日、プールサイドは滑りやすくて当然、浴室が滑るのは常識という一言だけで済まされてしまうとは限らないのです。ですので、建物内での転倒の場合には、建物の施設管理者に対して損害賠償請求することができる余地があるのです。
(参考
http://www.boukatsu.jp/pdf/manual.pdf)

 とはいえ、施設管理者に対して、損害賠償請求するのだとしても、抽象的に「現場が滑りやすかった」と主張するだけでは説得力は持ちません。実際に滑りやすいわけでもない場所でも、うっかりと転倒してしまうこともあり得るわけですし、「もし本当に転倒しやすくなっていたなら、その場所を通る人のほとんどが転倒するのではないか、しかし実際に転倒したのはあなただけだ。」と反論されてしまいます。この点、基準となるのが摩擦係数と呼ばれる数値です。詳しい考え方、説明は専門外ですので省きますが、C.S.R値(裸足で歩行する床の場合にはC.S.R.B値)で計測するのが一般的です。即ち、この摩擦係数を計測して、現場が転倒しやすい危険な状態になっていたのだという裏付けをすることが必須になります。

 最後に、損害賠償請求する際の根拠条文ですが、民法717条の土地工作物責任になります。土地の工作物である建物の床に瑕疵(欠陥)がある、つまり適切な摩擦係数が確保されていないために転倒事故が発生してしまったのだというわけです。