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弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入の是非について |
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皆さんは、裁判を起こしたとき、あるいは相手から理不尽と思われる裁判が起こされたとき、自分が頼んだ弁護士さんに支払った費用を相手に負担させることができたらなあと思ったことはありませんか?相手の対応のせいで裁判沙汰になり弁護士に高額の報酬を支払う羽目になったのだから、相手に負担させて何が悪いと思ったことは少なくないでしょう。 |
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裁判というのは、請求が通るか通らないか、やってみないと分からないのが普通です。真実は一つだから、結論も予め分かるはずと思っていたら大間違いです。自分の主張を裏付ける証拠が乏しかったら、その主張は認めてもらえない可能性があります。証拠が乏しかったために、どれほど多くの人が泣いてきたことか・・・ |
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さて、そこで問題です。 |
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さて、更に考えてみましょう。まず弁護士の立場からです。弁護士は事件の相談を受けるとき、事件の勝訴の見通しを聞かれることがよくあります。これまでは弁護士はこの種の質問に対して、勝訴の可能性があると思った場合、「相手の対応や証拠の如何にもよりますが、あなたの主張のとおりであるならば、勝ち目はありますよ。」という程度のことは回答すると思います。ですが、弁護士費用の敗訴者負担制度が導入された場合、この問いの持つ意味は今まで以上に重大な意味を持ってきます。つまり勝訴して弁護士費用の負担の必要がなくなるか、敗訴して相手の弁護士費用も含めて、結局、二倍の弁護士費用を負担しなければならなくなるかの判断の前提にもなるからです。そしてこの問いに対して勝訴の見込みがあると回答したにもかかわらず、敗訴した場合、依頼者はどう思うでしょうか。中には弁護士に対して、着手金の返還を求める方や相手に支払わなければならなくなった弁護士費用を負担して欲しいと要求する方などもおられると予測されます。 |
5 | とはいっても、確実に勝てる事件に関しては問題ないのだ、見通しもつかないまま安易に訴訟をするという姿勢が問題なのだという意見も依然としてあるでしょう。しかし確実に勝てるような事件というのは、貸した金を返さない債務者に対する貸金返還請求や賃料を支払わないまま居座っている賃借人に対する明渡請求などに限られます。このような事件で敗訴者に弁護士費用を負担させるといっても、そもそも資力が乏しいのが普通なので回収できないでしょう。このような場合、弁護士費用の敗訴者負担制度などといっても、ほとんど無意味です。 |
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更に弁護士費用の敗訴者負担制度のもとでは、和解や調停による円満解決の機運がなくなるということが予測されます。和解、調停が成立したときは、勝訴者も敗訴者もいないわけですから、弁護士費用は各自の負担となるはずです。ということは、勝訴の見込みがより明確になってきた段階で和解をするということは事件について一定の譲歩をするだけではなく、弁護士費用についても相手負担にすることができるのにその利益を放棄することを意味します。そのようなときに公平な解決を考えて譲歩しようという意欲はなくなるはずです。 |
7 | というわけで、私は弁護士費用の敗訴者負担制度の導入については反対なのです。 |
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